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朽ちた桜のこもれびの


知人の葬儀のため、田舎の実家に帰省したOLの瑞穂は、
カバンからそっと古い写真を取り出すと、
喪服が乱れるのも構わないとばかりに胸を剥き出しにして、
指を下半身に這わせて一人自慰に耽る。
手に持つ写真には、小さい頃の瑞穂と、なにやら歳のはなれた老人が写っている。
やがて絶頂に果てる瑞穂。打ちつけるようなオルガスムスが体の芯を貫き、目に涙を浮かべるが、
それは悦楽のためだけではないよう。
彼女は母の呼ぶ声も耳に入らず、ただ息を荒くしたまま呆けるのだった。

田畑と水路に挟まれた田舎道に、漆黒に伸びる葬列。そこには瑞穂も同列していて、一行は火葬場に向かっている。
遺影を持つのは故人の孫らしき少年で、いつもの黒い学生服が、今日だけは痛々しい。
瑞穂は顔を空に向け、遺影に収まる故人…先ほど自分が持っていた古い写真の男を思い出す。

めぐらすのは遠い日のこの地。
遺影の男の名は高田公俊という。
元海軍で、ご老体と呼ぶには眼光するどく、矍鑠(かくしゃく)とした昭和一桁世代だが、
なぜか瑞穂は昔からこの高田に懐いていて、その日も下ろし立てのセーラー服を見てもらおうと、
彼の自宅に上がり込んでいる。
そんな瑞穂に「おお…」と高田は相好を崩し彼女の顔に手をあてがう。
どうやら瑞穂に、亡き妻の若き日の面影を見たようだ。
「冬子が女学生の頃を思い出すのぉ」
瑞穂は、今はJCと言うのだよと、自分の顔に伸びた高田の手を優しく取ると、
写真立てに収まる在りし日の高田夫婦に目をやって、彼の妻、冬子のことを思い出す。
かつて冬子が口にした、ある言葉を脳裏に浮かべた瑞穂は、なぜか同じように高田に向かって口ずさむ。

「ねえ公俊さん…」

これがいけなかった。
高田は、瑞穂と冬子の容姿を重ねてしまい、
彼女に対して「帰ってきたのか」とにじり寄ると、
もはや亡き妻にしか見えぬ彼女を抱きしめて、その偽りの邂逅を祝福。
生前、頻繁に交し合っていたであろう夫婦の営みを今一度とばかりに、
セーラー服の初々しい瑞穂の体を一心に貪るのであった。
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